上場企業を知ろう
転職を考える際、多くの人が「上場企業」への転職を一度は検討するだろう。上場企業は安定した収益基盤や豊富な福利厚生など、魅力的な要素が多い。しかし、上場企業だと叶わない働き方もある。
ぼくは新卒でSBI証券に勤めていたからさ、せっかくの経歴を活かして、「上場企業×キャリア」の話をさせて貰うぞ。
「上場企業×キャリア」ってなんかかっこいいニャ。もこも上場するニャ!
私が勤めている会社も東証プライムに上場しているわ。せっかくだし、少しくらい上場企業の話を私からもさせて貰うわね。
本記事では、上場企業に転職する際のメリットとデメリットについて詳しく解説していく。
すでに、上場企業で働いている人、働いたことがある人は、改めてどういったキャリアがあるのか見直すのも良いだろう。目次を見て、気になった個所だけでも見てくれれば幸いだ。
上場企業の特性
まず、上場企業とは何かを触れておこう。上場企業とは、株式を証券取引所で公開している企業のことだ。
社員の目線で見ると、自分の会社が上場すると、毎日株価が変動する感覚を味わえる。持ち株会で自社株を多少なり保有するだろうから、自分の会社の業績や株価にも関心がいくだろう。
企業の目線で見ると、株式を公開することで、多くの投資家から資金を調達しやすくなり、企業の成長や事業拡大に必要な資金を確保できるようになる。資本や信用力は増える一方で、上場することにより、企業は「社会の公器」としての責任を持つことにもなる。
上場企業のメリット(法人側)
- 資金調達の容易化:
株式市場を通じて広く資金を調達できるため、企業の成長戦略や新規事業の展開に必要な資金を確保しやすい。公募増資といった言葉を聞いたことがあるだろうか。これも株式公開することで可能となる。また、上場という厳格な審査をクリアしているため、銀行からの借り入れもしやすくなる。 - 信用力の向上:
上場企業は透明性が求められるため、社会的な信用力が向上し、取引先や顧客からの信頼を得やすくなる。具体的には、新たな取引先の獲得、金融機関などの信頼性向上が見込まれる。一定の規模や与信がなければ取引してくれない会社も世の中にはあるが、そういった取引もしやすくなるわけだ。 - 社員のモチベーション向上:
株式公開をすると会社のブランド認知が上がる。ブランド力は社員に仕事の活気を与えるだろう。また、後述するが株式報酬制度を導入することで、社員のモチベーションを高めることができる。
上場企業の義務(法人側)
- コーポレートガバナンスの強化:
上場企業は、企業統治(コーポレートガバナンス)を強化し、経営の透明性と公正性を確保する必要がある。「会社は経営者のものではなく、資本を投下している株主のもの」という考え方のもと、企業経営を監視する仕組みだ。これには、取締役会の設置や社外取締役の任命、内部統制システムの整備が含まれる。 - 情報開示の義務:
上場企業には株価に影響を与えうる経営上の重要な情報を、正確性に配慮しつつも、速報性を重視して適時適切に公表する義務が課され、定期的に業績や財務状況を公開する義務がある。これらを「適時開示」という。具体的には、四半期決算や年次決算の開示、適時開示情報の提供などが求められる。 - 株主総会の開催:
定期的に株主総会を開催し、株主に対して経営状況を報告し、重要事項についての承認を得る必要がある。「モノ言う株主」と呼ばれるアクティビストというのを聞いたことがあるだろうか。会社は経営者たちだけのものではないというのがよくわかる。
複数の上場区分と社数
- プライム市場 / 1,645社:
東証の3つの区分のうち一番上の市場。主に大企業や国際的に活動する企業が上場する市場で、厳しい上場基準と高い透明性が求められる。 - スタンダード市/ 1,603社:
東証の3つの区分のうち真ん中の市場。中規模の企業や成長企業が上場する市場で、プライム市場に比べて柔軟な上場基準が設定されている。 - グロース市場 / 584社:
東証の3つの区分のうち一番下の市場。最初はだいたいグロースからスタートする。新興企業やベンチャー企業のような成長ポテンシャルが高い企業がここの区分に多くある。
※()は2024年6月18日現在の社数
上場企業に関する小ネタ
上場企業の総数について
2024年現在、時価総額トップのトヨタ自動車(48兆円)をトップに、約4,000社の上場企業が存在する。日本国内には368万社の法人があると言われており、上場企業は約「0.1%」、1,000社に1社の割合となる。
実際に働いている人は約364万人で、総務省の統計によると2023年の雇用者数は約5,756万人であり、組織で働く人の約6.3%が上場企業で働いている計算になるようだ。
・国内上場企業数は約4,000社で割合は1/1,000社(0.1%)
・働いている人は約16名に1名が上場企業勤務
この数字を覚えておくと、ちょっとしたビジネスシーンで使えるネタになるかもしれない。尚、ペーパーカンパニーも含めた割合。ペーパーカンパニーの統計は出ていないので、実態の割合までは分からなかった。
募集職種を見ることでIPO準備中かわかることも
上場企業は株式公開すると同時に、大きな資本を調達し、知名度を得られる。一方で、「社会の公器」としてガバナンス強化を求められる。採用現場では、ガバナンス強化のために総務責任者や経理などのバックオフィスの強化がされる。
株式公開 / IPOをしそうな会社を探したい場合は、その会社の募集職種を見てみるのも良いかもしれない。
上場企業=大企業は思い込み!?
上場企業と聞くとそのまま大企業というイメージを持っている人も多いのではないだろうか。結論から言うと、「上場企業の中にもベンチャーはたくさんある」ので注意してほしい。どういうことか説明する。
上場企業を社員数の観点で調べてみた。そうしたところ、1800社近くの上場企業が正社員の社員数300名未満ということが分かった。上場企業が約2,000社ある中で、300名に満たない会社が半数近く占めているのだ。意外に感じないだろうか?
厚生労働省が公開している賃金構造基本統計調査では、1,000人以上を「大企業」、100~999人を「中企業」、10~99人を「小企業」と区分している。この定義に従い、1,000名以上の上場企業数を調べてみたところ、その数は1800社程度だった。
上場企業の社長や社員が「うちは上場したけどまだまだベンチャーだ!」というのも、案外納得ができる。半数の会社が300名未満の企業だからだ。
上場企業の選考を受ける場合でも、大企業と決めつけないように注意しよう。相手を見ずに、「御社は上場していて大企業なので安心感があります」なんて言ってしまうと、「いやいやうちはベンチャーだから(何も調べてないな)」と返されてしまうかもしれない。
上場企業で働くメリット
さて、ここまでは少し社会の勉強のような内容になってしまった。
簡単におさらいすると、上場企業は株式公開 / IPOをすることで、資金調達がしやすくなり資金面で経営の自由性が増す。一方で、社会的公器の役割も担うので、コーポレートガバナンスなど、制約も課される。
単純な知名度だけでなく、その特性から出てくる働くメリットや醍醐味があるぞ。ここからは上場企業で働くメリットを見ていこう。
キャリアを向上させやすい
上場企業で働くメリットとして、真っ先に挙げたいのが「キャリアを向上させやすい」という点だ。なぜ上場企業で働くとキャリアを向上させやすいのか理由を列挙してみよう。
- 知名度のあるサービスに携われるから
社会的に知名度のあるサービスに関わる経験ができれば、それだけでキャリアに花を添えてくれる。うまく行っている会社やサービスのノウハウを知っているためだ。そこでの経験は、転職先からすれば魅力的に映るだろう。 - 規模の大きな職務に従事できるから
上場企業はそのブランド力からクライアントやサービス規模が大きいことが多い。クライアント規模が大きなところを、ナショナルクライアントやエンタープライズと区別したり、サービス規模を大規模サービスと呼んだりする。規模の大きな職務に携われるならば、キャリアを魅力的に映してしてくれるだろう。 - キャリアアップの機会が多い
上場企業や大企業ではキャリアアップの機会が多い。組織が大きく、部門や職種が多岐にわたるため、自分のスキルや経験を活かせるポジションが見つかりやすい。また、研修や教育プログラムが充実していることが多く、自身のスキルアップを図ることができる。
上場して知名度がある分、スタートアップやベンチャー企業にはない働く魅力があるだろう。
次の転職がしやすい
上場企業で勤めることのメリットのひとつに、転職のしやすさがある。知名度とノウハウ、2つの点からだ。
どれだけ優れた営業実績を保有していても、どれだけ優れた技術力を持っていても、在籍企業の知名度が低い場合はすぐにその実績を受け入れて貰いづらい。
しかし、上場企業の〇〇で実績を残していたと言われれば、面接官も信じてくれやすい。当該企業での社会的な信用やネームバリューの恩恵を受けることができる。名の知れた企業での勤務経験は、将来的な転職活動やビジネスの場で有利に働くことが多い。〇〇さんは△△出身という、良い意味でのレッテルを貼って貰えることだろう。
一方で、単純に上場していて知名度があるから転職しやすいというだけでもない。上場企業の場合は、一定の規模があるため、仕事内容も細分化されて仕組化されていることも多い。すなわちノウハウが貯まっている。
仕組み=再現性、なのだ。その、仕組みに対して精通していることで、次の会社でも実力を発揮しやすいと思ってもらうことが、転職のしやすさに繋がっている。
上場企業でしか経験ができない仕事がある
これは、おそらく総務や経理などのバックオフィス業務に携わる人の方が当てはまるだろう。例えば、上場企業の場合はIR広報や決算周りなどだ。
そうね、私は人事をしているけれどM&Aされた子会社の人事制度を見直す時があるの。上場していて体力がある会社ゆえ経験できるお仕事ね。
M&Aをする時に労務のデューデリジェンスもしているよね、きっと。もしかして美人事さんはバリキャリだったの!?
<上場しているゆえの職務例>
・決算短信の作成・発表
・四半期報告書・有価証券報告書の作成
・内部統制報告書の作成
・監査法人対応
・IR対応
上記以外にも、非上場企業よりはM&Aや企業のHD化、連結化などから連結決算の対応などを経験することもきっと多いだろう。場合によっては、社会貢献性の高いCSRに関わる仕事などの機会もあることだろう。
経済的安定性と福利厚生を期待しやすい
上場企業は多くの場合、経済的に安定している。株価が数円とかひとけた台になっていたり、債務超過が長く続いているような企業を選ばなければ、経済的な安定は得やすいであろう。
定期的な収益報告や株主への説明責任があるため、財務状況が透明であり、経営の健全性が保たれていることが多い。このため、従業員は安定した給与を期待できる。
また、上場企業は福利厚生が充実していることが多い。社会保険や健康保険、退職金制度、各種手当など、従業員の生活をサポートするための制度が整っている。また、企業によっては住宅手当や家族手当、教育支援なども提供していることがある。
持ち株会の恩恵がある
従業員持株会って聞いたことあるだろうか?従業員が自社が勤める会社の株式を毎月定額購入できる制度のこと。
この持ち株会の貯蓄は、実は投資の手法的に非常に理にかなっている。ここ数年だと、持株会で利益を出した人もきっと多いだろう。持ち株会を通した自社株買いは、投資ではなく福利厚生の一環であるけれども、上場企業へ勤めた時の副次的なメリットの一つに挙げられるだろう。
従業員持株会では、給与・賞与から一定額を天引きし、これを集めた資金で自社株を購入できる。毎月千円単位で購入できるはずだ。また、取得にあたり会社が拠出金の給与控除、奨励金の支給などの種々の便宜を与えてくれて、従業員の自社株取得を容易にし、財産形成を助けてくれる。
この従業員持ち株会は資産形成の役に立つと思われる。なぜなら、毎月定額でドルコスト平均法で自社株を買い付けることになるからだ。ドルコスト平均法は何十年も前から言われている投資手法だけど、毎月決まった金額を投資に回すことを意味する。近年は特に積立NISAに絡んでよく耳にする言葉になっているのではないだろうか。
ドルコスト平均法は相場が下がった時は株数を多く購入できるので、その後の株価回復で損を減らして利益を出しやすいんだ。もちろん、元本や利益保証ではないけどね。
※ドルコスト平均法の詳細はの説明は、転職ギルドマスターの古巣であるSBI証券さんにお任せする。
自社の株式を持つことで、会社の利益と自分の利益が一致しやすくなる。業績が良い場合は配当金も入ってくる。加えて、ドルコスト平均法で購入していくからリスクも一定分散できると来るわけだ。
もしも、上場企業に転職を決まった人や今勤めているけれども持株会に入っていない人がいたら、ドルコスト平均法を勉強してみることをおすすめするよ。
上場企業で働くデメリット
ここまで上場企業で働くメリットを中心で見てきた。正直メリットしかないのでは、と思ってしまう。ただ、もちろんデメリットもある。正確にはデメリットというより、上場企業だと叶わない働き方と言った方良いかもしれない。
いわばないものねだり、逆説的な所もあるかもしれないが、デメリットも確認していこう。
高い成長が享受しづらい
東証マザーズのようにまだまだベンチャーの雰囲気を残した会社であればいいかもしれないが、東証プライム企業の場合は成長性を享受しづらいかもしれない。
ベンチャーというのは、創業→シード→シリーズA~C→上場 / IPOというステップを一般的には踏む。上場企業の場合は左記の「創業→シリーズA~C」までのジェットコースターのような浮き沈みを体験しづらくなる。また、管理職や幹部も創業期からの社員が多いだろう。
スタートアップやベンチャーで浮き沈みを経験してレベルアップしたい、あるいは、創業期から入って早く昇進したいといった人には不向きかもしれない。
スタートアップやベンチャー企業に興味がある人は、よければこちらの「スタートアップ・ベンチャー企業で働く醍醐味を徹底解説!」を参照してほしい。
高い競争倍率
上場企業は人気が高いため、採用の競争率も高い。多くの応募者の中から選ばれるためには、優れたスキルや経験、学歴が求められることが多い。そのため、転職活動においては厳しい選考を勝ち抜く必要がある。
特に、募集人数が1名しかないような職種は競争が激しくなる。例えば、社内SEやマーケティング、デザイナー、経理、総務、人事といったポジションだ。企業側も比較して採用したいので、相対比較は必至だ。
職務のオペレーションと細分化
上場企業の中でも特にプライムのような大企業で勤めている場合、職務の細分化が進んでいることだろう。
職務の細分化が進むと、オペレーションしか経験をしたことがないという人も出てくる。職務の全容を把握できていなかったり、規模が大きすぎてPDCAを回したことがないようなこともある。歯車のように部分的な仕事しか経験できていないという弊害だ。
財閥クラスや子会社をたくさん抱えているような大企業だと、会社単位で分業(機能分け)しているような会社もある。例えば、マーケティング機能は子会社のインハウスエージェンシー、開発はシステム子会社、広報はどこどこ、制作はどこどこといった感じだ。
このような全体を把握して仕事ができていなかったり、PDCAを回した経験がなかったりする場合は、転職段階においてはマイナスに作用しやすい。企業としては作業者は要らないからだ。
組織や仕事への関わり方を変えることはできないため、普段の仕事をできるだけ全体から俯瞰して捉えておこう。実際に、全体を把握した仕事は難しくとも、意識を持っておくだけで全然違うはずだ。
ルールや規則の厳格さ / イノベーションの制約
上場企業は、多くのステークホルダーに対して説明責任を負っているため、内部統制やコンプライアンスが厳格である。これにより、業務プロセスや日常の業務において多くのルールや規則が存在する。このような環境が窮屈と感じる人もいるだろう。
うちの会社では年に一度、新規事業コンテストをやっているわ。とりまとめが人事の仕事で案外大変なのよね。
最近、新しい段ボールの寝心地が最高なのニャ。お昼寝の新規事業をはじめるニャ!
もちろん、上場企業も新規事業コンテストをしてみたり、日々のビジネスから新規事業の種への投資は欠かさない。
とはいえ、スタートアップやベンチャー企業のように、思いついたら即行動というわけにもいかない。仮にやりたい仕事はできたとしても、社内申請や稟議は時間と手間を要するだろう。
また、上場企業はしばしば既存のビジネスモデルや業務プロセスに固執しがちである。このため、革新的なアイデアや新しいアプローチを実行することが難しい場合がある。自由な発想や柔軟な働き方を求める人にとっては、ストレスとなることもある。
歴史や実績があるということはしがらみもある。古くから付き合いのパートナーもあれば、系列もあるだろう。販路も売り方も慣習があることだろう。
転職すべきタイミングを見失うことも
上場企業でなおかつ大企業に勤めている人は、時に転職時期を失ってしまう人が一定層いる。勤めている会社が安定しており、居心地が良い会社であるせいで転職のきっかけがないからだ。
言って見れば、「転職市場での浦島太郎状態」になりかねない。
年を重ねて管理職の年齢になってくると、状況が一変することが多い。特に歴史やブランドのある企業に勤めている日は転職時期を逸してしまう傾向があると思う。
会社は良くも悪くも、外界の荒波から社員を守ってくれる。「会社の業績や実績」=「自分の実績や能力とは限らない」のだ。
近年は、昔のように肩たたきと言われるような、退職勧奨などはあまり耳にしない。しかしながら、大企業ゆえに管理職のポジションが埋まっていたり、まったく関係ない部署に異動を命じられたるすることもある。
やむを得ず転職活動をする場合、これがなかなか苦戦する。上場企業で知名度もあるせいでプライドもあり、どうしても次の会社は大企業に固執しがちになる。しかしながら、大手や知名度のある会社は競争倍率も高いし、若手を欲しがる。
一方で、スタートアップやベンチャーだと仕事の進め方から文化までまるで求める経験が異なる。若い頃であれば取返しも効くが、大企業に長く勤めているとその後の転職で苦戦することが多い。構造的なミスマッチとなりやすい。
上場企業や大企業は個人を守ってくれる部分も多い。しかし、一歩外に出れば自分が通用するかは未知数。普段から自己研鑽に励み、会社に依存しない働き方を模索しなければならないだろう。
決算情報と決算説明資料の見方
この記事の最後に、転職活動における決算情報と決算説明資料の見方をお伝えしておきたい。上場企業と一括りにしても、先に記載したようにプライム、スタンダード、グロースだけでも全然規模は異なる。
上場企業は選考の場でIR(決算情報等)を見ている前提で選考をされる可能性もなくはない。普段、決算情報など見ない人はこの場で、少しだけでも慣れていってくれると良いだろう。自分で会社を見抜く力を養ってほしい。
できれば、上場企業の場合は下記2つの資料に目を通す習慣をつけて欲しい。さらっと見るだけなら、所要にして10分あれば大丈夫だ。
・決算短信:名前の通り決算情報が分かる。
・決算説明資料:会社の事業内容がダイジェストでわかる。
ほんの少しでも自ら決算情報や決算説明資料を覗いて、いい会社だなとか、思ったより決算はよくないなとか、自分なりの考えを持っておこう。選考の場でもしかしたら思いもよらず、話が盛り上がるかもしれない。
決算短信
会社の決算 / 業績を見るとしたら「決算短信」を見るに限る。
決算短信とは、上場企業が四半期ごとに公表する業績報告書のことだ。企業の財務状況や経営成績を投資家や市場関係者に提供するために作成される。この文書は、日本の証券取引所に上場している企業にとって義務付けられており、企業の透明性を高める役割を果たしている。
前提として、決算月は会社によって異なる。昔からある企業は4月から期を始めて3月末に締める、いわゆる3月末決算の会社が多い。ITやインターネット系の最近の会社は会社が始まった時期(月)に決算を合わせている所が多い。
決算短信の種類と主要指標の確認
決算短信を読む際には、1年間の通期決算か半年の半期決算か、四半期決算か注意して見よう。
年間の売上高を見ようと思って、せっかく決算短信で売上高をチェックしてみたのだが、実は四半期決算を見ていて、年間の1/4の売上だったという勘違いは往々にしてあり得る。年間売り上げは○○億円か、結構少ないなと思ったら四半期決算だった、というオチだね。
<決算短信の3つの種類>
・通期決算
・半期決算
・四半期決算
また要な財務指標に注目することが重要。具体的には以下の指標をチェックしよう。
売上高:企業の収益力を示す。
営業利益:本業でどれだけ利益を上げたかを示す。
経常利益:営業利益に金融収支などを加味した利益。
純利益:最終的な利益。
決算短信の見るべきポイント
決算状況を詳細に見始めるととても難しい。証券会社や銀行の社員でもないし、投資家でもない。決算を見る時は、下記のポイントをさっと見れればそれでいいであろう。
- 売上高について
いくら売り上げているのか必ず確認しよう。数十億円なのか数百億円なのか。基本的に百万円単位になっている。基本中の基本ではあるが、売上高を見て、月間で〇〇億円の売上なんだなとイメージするだけでも全然良い。現職との売上高比較をするのもいいだろう。
そして、売上高の伸び率も見ておこう。前年対比で伸びているのか、トントンなのか、減っているのか。勢いがあるのかどうかチェックしておこう。応用レベルではあるが、既存事業が伸びているのか、それとも新規事業が伸びているのかまでチェックできれば100点だ。 - 利益について
どれくらい利益を上げているかも見ておこう。まずは、黒字なのか赤字なのか。赤字の企業は思っている以上にある。赤字だとすぐに倒産するということはないが、賞与や給与に影響は出てくるだろう。
最終的には、純利益が黒字なのが一番だが、営業利益がきちんと出ているのかは見ておくと良いだろう。営業利益=本業での収益力と読み替えてよいからだ。 - 決算を比較する
数字を見る場合は比較して見るべし。可能であれば3年分のデータを並べて見ると良いだろう。ただし、コロナを挟んでしまうので、コロナ前の2019年頃のデータと見比べてみると良いかもしれない。
具体的には、2019年の売上高や営業利益額などを最新の決算と比較して見る。当時より上回っていればよし、上回っていない場合は何かしら事業がうまく行っていない可能性がある。
決算短信の決算年度に注意を!!
決算短信を見る際は、いつの決算年度なのか必ず確認しよう。
と言うのも、2,3年前の決算はまだコロナの影響を色濃く残しているからだ。特に、2020年の決算はコロナの影響を受けている年なので気を付けて欲しい。多くの企業の場合、前年対比で減収減益だろう。2020年の決算ということに気付かず見てしまうと、業績が悪い企業と思い込んでしまいかねない。
逆に、2021年度はコロナの影響が多少なくなり、2020年対比で大幅に回復しているだろう。必ずしも業績がめちゃくちゃ伸びているわけではなく、コロナの悪影響が減っただけだ。しかし、それでもコロナ前の2019年の業績には戻っていない会社が多いだろう。
また、業界によってはコロナの影響を色濃く受けたところもあるし、あまり受けなかったところもある。そういう意味ではできるだけ2023年か2024年などの最新の決算を見て、過去の数値と比較して見てもらえればと思う。
決算短信の見方の実例(JTB)
実例として、JTBさんの決算短信を見てみよう。
JTBさんを選んだのは、コロナを境に浮き沈みを大きく経験されているので題材とさせてもらった。決算を見ると、どれだけコロナが大変だったかわかる。
会計年度 | 売上高 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 |
---|---|---|---|---|
2024年3月期 | 1,080,950百万円 | +10.5% | 24,941百万円 | -25.9% |
2023年3月期 | 977,977百万円 | +67.9% | 33,636百万円 | --- |
2022年3月期 | 582,323百万円 | +56.5% | -4,880百万円 | --- |
2021年3月期 | 372,112百万円 | -71.1% | -97,556百万円 | --- |
2020年3月期 | 1,288,569百万円 | -5.8% | 1,393百万円 | -78.0% |
2019年3月期 | 1,367,396百万円 | +3.4% | 6,327百万円 | +23.2% |
まずは、JTBさんの決算の2023年3月期決算の売上高を見てみよう。ここだけ切り取ると、売上が前年対比で+67.9%と非常に急成長しているように見える。2024年3月期決算だけ見ても、売上が前年対比で+10.5%で順調そうに見える。
しかし、コロナ前の2019年の売上を見てみよう。コロナ前の水準は回復していないことが分かる。売上ベースで見ると3,000億円近くも当時の水準を回復していない。
あくまで決算短信上での話で、もしかしたら事業部によっては当時を超えているものもあるだろう。しかし、数字だけ読み取ると、コロナで売り上げは1/4まで落ちて、急回復はしているが、まだ回復途上と言えそうだ。
細かな数値まで見る必要はない。しかし、これくらいの数値は慣れれば数分で見て取れるので、サッと見て選考に臨めれば「この人は違う」って思って貰える可能性がある。決算情報を読み取れると、転職活動だけでなく、日々の仕事や生活に彩を与えてくれるだろう。
決算説明資料(実例付き)
ここでは、サイバーエージェントさんの決算説明資料を見てみようと思う。理由は、ABEMAや広告代理事業からゲーム(ウマ娘)など、事業領域が多岐に渡っているため、俯瞰を目的とした題材に最適なためだ。
※参照:株式会社サイバーエージェントの2024年2Qの決算説明会資料より
事業やサービスの俯瞰がしやすい
上記リンク先のp4(下図キャプチャ)を見て欲しい。このページでは、サイバーエージェントさんの2024年2Qの事業部別の売上構成比が分かる。
2Q終わった時点で全売上全体は2,151億円。広告代理事業は売上1,073億円、次いでゲーム事業が671億、ABEMAを筆頭としたメディア事業が420億円となっている。広告事業が売上の半分で残りの半分がゲームとメディアで1/4ずつというのが分かる。
なんとなく、サイバーエージェントさんの印象派、最近ABEMAをよく見るから、サッカーのワールドカップや野球の大谷翔平さんの中継などでメディア事業は伸びてそうといった印象はある。実際はどうなのか、決算説明資料を見ることで確認することができるわけだ。
上のページさえ見れればすぐに分かる。決算説明資料は便利なのだ。そして、これはサイバーエージェントさん以外の上場企業でも、ほとんどの企業で決算説明資料を見れば、事業の売り上げ構成比はわかる。
トレンドやトピックを掴みやすい
次に、上記リンク先のp5(下図キャプチャ)を見て欲しい。このページでは、サイバーエージェントさんの2024年2Qの売上のトレンドが分かる。
上の図を見れば一目瞭然だが、売上は2019年以降も右肩上がりなのが分かる。2020年はコロナの影響もなんとか乗り切り、2024年はわずか数年でコロナ前の2019年の売上の2倍近い売上を誇っている。すごいの一言だ。
詳細は決算説明資料を見て欲しいので割愛するが、広告事業もゲームもメディアもすべての事業が2020年対比で伸びている。あと、p25に書いてあるのだが、ABEMAは投資以来、初の四半期黒字化を達成したらしい。(拍手)
どうだろう、決算説明資料を見るだけで実に色々なことが見て取れると思う。
単一事業だけでなく、複数の事業をしている会社の場合、初見だと正直何をしている会社なのかすぐに理解できないことが多い。日々、様々な会社と出会う転職エージェントの立場にいてもそうだった。
選考を受ける会社が何をしているかわからない時は、ぜひ決算説明資料を見てくれればと思う。転職活動だけでなく、日々のビジネスシーンでもきっと役に立つスキルになってくれると思う。
まとめ
ここまで読み進めてくれてありがとう。
そして、どうだろうか。上場企業で働くメリット・デメリットは感じて貰えただろうか。最後に記載した、決算情報や決算説明会資料の見方をマスターして貰えると、上場企業の業績や勢いなどが見えてくる。
自分で会社の力を読み取れるようになると、転職活動だけでなくその先のキャリアをより良くしてくれるだろう。一歩先のキャリアを見越して、転職活動をして貰えればと思う。