インバウンドの波は乗りキャリアも開く
近年、インバウンドという言葉が盛んに使われている。ご存じの通り、訪日観光の文脈でよく使われる言葉だ。
訪日観光客の誘致には、今や政府も企業も必死だ。なぜそこまでインバウンドの必死なのか。忌憚なく言うと、日本の国際競争力が落ちぶれているからだ。
日本よりも高い購買力を有する国々は多々ある。購買力が高い外国旅行者をたくさん誘致して、日本で消費活動をして貰おうとしているわけだ。そのために、国も企業も外国人観光客の誘致に力を注いでいる。そして、インバウンドに成功している企業は急成長している。
このインバウンドの波に乗りキャリアを伸ばしてほしい。インバウンドに関わる業務やマーケティングに精通した人には、ビジネスにおいて高い評価が付いてくる。
本記事では、訪日インバウンドの重要性と本質を紐解き、そこから得られるキャリアについて解説していく。訪日インバウンドの業務経験や知見を得ることができれば、この先、重宝されるキャリアに転換していけることだろう。
インバウンドは観光だけに限らず、広告・プロモーション、小売り、交通など、幅広い業界に波及する。自分のキャリアで何かしら強みを持たせたいと考えている人がいたらインバウンド業界はおすすめだ。
訪日インバウンドの重要性
今や日本人よりも稼いでいる国はたくさんある。そのため、インバウンドの重要性は日に日に増している。購買力が高い海外の人たちを日本に呼び込んで、日本の経済成長を支える重要な柱とすべくさまざまな取り組みが施されている。
インバウンドってもこも知ってるニャ。大好きな鳥のささみが爆買いされてなくなったニャ。
もこちゃん、ごめんね。鳥のささみはただ買い忘れちゃっだだけなの。
日本政府は、観光立国を目指し、訪日外国人旅行者数を増やすためにさまざまな政策を打ち立てている。
実際、訪日観光客での消費は、日本経済に大きな影響を与えている。訪日外国人消費動向調査(2023年)によると、訪日外国人旅行消費額は5兆2,923億円、訪日外国人(一般客)1人当たり旅行支出は21万2千円となっている。
訪日観光は経済成長の重要なドライバーであり、地域経済の活性化や雇用創出にも寄与している。観光業界だけでなく、広告代理店や小売業など多岐にわたる産業にも波及している。これらの産業は、訪日外国人旅行者の増加によって活性化し、経済全体の底上げに貢献している。
世界のビックマック指数
ところで、ビッグマック指数(BMI)という言葉をご存じだろうか。英国の経済紙エコノミスト(The Economist)が発表している、世界中のマクドナルドで販売されているハンバーガー「ビッグマック」を基準とした物価基準を示す指標だ。
2024年現在の日本でのビッグマックは1個約500円だ。しかし、海外でビッグマックを食べようとすると、500円で済まないことが多い。下記の表が1USD=158.89円での為替レートで計算したビックマック1個あたりの値段だ。
順位 | 国・地域 | 価格(USD) | 価格(円) |
---|---|---|---|
1位 | スイス | 8.17 | 1,296円 |
2位 | ノルウェー | 7.14 | 1,132円 |
3位 | ウルグアイ | 7.04 | 1,116円 |
4位 | スウェーデン | 5.87 | 931円 |
5位 | ユーロ圏 | 5.87 | 931円 |
6位 | コスタリカ | 5.71 | 906円 |
7位 | イギリス | 5.71 | 906円 |
8位 | 米国 | 5.69 | 902円 |
9位 | スリランカ | 5.69 | 902円 |
10位 | デンマーク | 5.69 | 902円 |
43位 | 日本 | 3.04 | 482円 |
近年、日本の購買力が低下していることが話題となっている。直近で海外に出かけたことがある人であれば痛感するだろうが、海外でアメリカや欧州でビックマックを食べようとすると、日本で食べるより2倍の費用を払わないと食べれれないのだ。もはや、海外旅行は贅沢品だ。
逆の視点で見れば、海外の人たちから見た日本は物価が安く魅力的に映る。自分の国で旅行するより、半分の金額で旅行ができる感覚の国もあるだろう。それだけ購買力の差が深刻になっている。そして、よく耳にする「爆買い」に繋がってくるのだ。
この購買力の差が続く間は、インバウンド強化の流れは止まらないだろう。
政府主導の「訪日マーケティング戦略」
官公庁が2023年に策定した「訪日マーケティング戦略」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
同戦略は、2023年度から2025年度を対象とした戦略で、政府が策定した「観光立国推進基本計画」に掲げられている「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」を実現するべくさらに細かく策定されたものとなる。
日本に海外の人を呼び込むために、地域や国ごとに訪日してくれそうな人を想定し、どういうプロモーションを立てて、どのような顧客体験を提供するか方針を立てている。「訪日マーケティング戦略」を見れば、政府がどれだけインバウンド需要を取り込みとしているか、その本気度がうかがえる。
訪日マーケティング戦略の中身は下記の3部構成となっているので、良ければ目を通してほしい。
第1部:市場別(国と地域)戦略
世界の国や地域から旅行消費単価や地方訪問意向が高いターゲットを選定している。そして、ターゲットの興味や関心に応じて「訴求パッション(テーマ)」と「観光コンテンツ」をまとめ、プロモーション方針をまとめている。
例えば、お隣の韓国に対しては、温泉、リゾートなど高単価のコンテンツやローカルフードをはじめとする日本各地のコンテンツの訴求、中国に対しては、映画やアニメなどのコンテンツを含めた情報発信による地方誘客、ドイツに対しては地方のアウトドア・アクティビティ等の観光情報の訴求など、国や地域に対して訴求ポイントを分けて計画が立てられている。
第2部:市場横断マーケティング戦略
第1部の市場別マーケティング戦略と連動しながら実施される、3つのテーマに分けた戦略が立てられている。具体的には下記3テーマ。
■高付加価値旅行:
訪日旅行1回あたりの総消費額が1人あたり100万円以上の旅行者がターゲットとしている。現段階では高付加価値旅行者の誘客に向けたモデル観光地として11か所選定されている。北海道や那須、北陸、沖縄・奄美などだ。
■アドベンチャートラベル:
アクティビティと文化体験を組み合わせて日本ならではの魅力を訴求する戦略だ。市場規模が大きい北米、欧州、豪州などの旅行者を対象としている。
■大阪・関西万博:
万博と連動したプロモーションを計画した戦略となる。万博のテーマと連動したサステナブル・ツーリズムについて旅行者と地域住民の交流を深める観点から発信し、地方誘客を促進する。
第3部:MICEマーケティング戦略
MICEとは「Meeting:会議・研修」「Incentive travel/tour:インセンティブ旅行」「Convention:国際会議・学術会議」「Event:イベント」の4つの頭文字を合わせたビジネスイベントの総称のことを指す。
分かりやすくまとめると、国際学会や会議などは日本に誘致し、企業が成績優秀者や顧客などを招待する報奨旅行、研修旅行も日本に誘致しようという計画となる。
インバウンド業務で身につく5つの業務スキルと経験
訪日インバウンドの本質は、訪日観光客を誘致し消費をいざない、訪日旅行消費額を増やすことにある。
訪日旅行消費額は、人数(訪日旅行者数)×単価(1人あたり消費額)で表現できる。いかに多くの人を呼び込み、より多くの消費を誘引できるかがポイントなのだ。そして、最終的には自分たちの購買してほしいサービスまで導線を張る。
この過程にはビジネスで得られる重要スキルや経験が詰め込まれている。インバウンドで得られる業務スキルと経験を見ていこう。
1.マーケティング力
訪日インバウンドの仕事に就くと、マーケティング力は確実に養われる。なにしろ、世界中から多種多様な観光客を誘致し、自分たちが販売・提供する商品やサービスまで呼び込む必要があるからだ。
インバウンドに関わる仕事はマーケティングの塊と言っていいだろう。やりがいに満ち溢れている。
例えば、訪日旅行者を増やそうと考えたとする。少し実践的な数値を見てみよう。下記の図を見てほしい。先述の「訪日外国人消費動向調査」より「1名あたりの旅行支出」と「訪日人数」の上位6地域を引用して、そこに6地域の総人口を加えてみた。
年間の訪日人数では韓国が圧倒的1位だ。次いで、人数で見れば台湾、中国、米国と並んでいる。
一見すると、中国と米国の来日者数は多いのだが、総人口に対する訪日客の割合は非常に低い(0.2~0.6%)。おそらく、日本への観光の認知率は低いのだろう。ということは、マーケティング的には認知拡大から始めなければならい状態ではないだろうか。
一度でも日本に来たことがある人と、まったく来たことがない人には訴求すべきメッセージも当然異なる。このように、訪日客を増やすということだけでも、国や地域が異なるだけでなすべきことが大きく異なる。ターゲット市場のニーズ、トレンド、旅行者の行動パターンを徹底的に調査しなければならない。
訪日インバウンドを考えることはマーケティング力の養いに持ってこいと言えよう。
2.プロモーション / 情報の発信力
訪日インバウンドの仕事に就いた場合、マーケティング担当でなくともプロモーションに触れる機会は多くなる。しかも、さまざまな手法やチャネルにおけるプロモーションに精通できるチャンスがあるだろう。
下記が、代表的な訪日インバウンドのマーケティングで利用されるプロモーション手法だ。インバウンド業界ほどにプロモーションを身近に学べる業界は少ないだろう。
- SNS/インフルエンサーマーケティング
訪日インバウンドマーケティングでは、多言語対応のSNS(インフルエンサー)を使ったプロモーションが積極的になされる。英語、中国語、韓国語など、ターゲットとなる国・地域の言語で多数展開される。
インフルエンサーマーケティングは、SNSを活用した効果的なプロモーション手法で、現地で人気のあるインフルエンサーを起用し、日本の魅力を紹介してもらう。これにより、フォロワーに対して信頼性の高い情報を提供し、訪日観光の興味を引き出すことができる。 - デジタル広告
デジタル広告は、訪日インバウンドプロモーションにおいて非常に効果的かつなくはてはならい手法。地域が世界に及ぶため、TVなどのマスマーケティングの手法は取りづらい。
Google AdsやFacebook Adsを活用し、ターゲットとなる国・地域のユーザーに対して広告を配信する。特に、検索連動型広告やリマーケティング広告を活用することで、訪日観光に興味を持つユーザーに対してピンポイントでアプローチできる。 - 動画広告
動画広告は視覚的に強い印象を与えるため、訪日インバウンドプロモーションにおいて有効。YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームを活用し、日本の観光地や文化を紹介する動画を配信する。短くて魅力的な動画コンテンツは、ユーザーの関心を引きつけ、訪日意欲を高めることができる
3.コンテンツマーケティングの制作力
コンテンツマーケティングは、インバウンドマーケティングの中心的な手法である。発信力とはまた違い、質の高いコンテンツを作成する能力が身につくだろう。
もちろん、多言語対応コンテンツの作成はマストとなり、ブログ記事やウェブサイト、アプリのコンテンツを季節に応じて作る必要があるだろう。それだけでなく、eブック、ホワイトペーパー、ウェビナーなどの手法をとることもあるだろう。
単純に制作スキルだけでなく、どういうメッセージや訴求を、誰に行うかのイロハを学ばなければならない。さまざまあるコンテンツの中でも、動画コンテンツの作成では高いスキルを得られるだろう。
観光地の紹介や文化体験の様子を動画で伝えることで、訪日観光客の興味を引きつけることができる。作成とは、YouTubeやTikTokなどのプラットフォームを活用して、多言語字幕を付けた動画を配信をする。
インバウンドでのコンテンツ製作に携われれば、人の心を動かし、来日して貰うだけのコンテンツ構成力と魅せる力を習得できることだろう。
4.顧客体験の創出力
訪日インバウンドマーケティングにおいて、顧客体験の創出は非常に重要な要素である。外国人観光客が日本での滞在をより豊かで満足のいくものと感じるためには、優れた顧客体験を提供することが不可欠である。
日本文化を直接体験できるプログラムはわかりやすく人気が高いものであろう。茶道や書道、着物の着付けなど、外国人観光客が日本の伝統文化を体験することで、深い満足感を得られる。また、こうした体験はSNSでシェアされやすく、自然なプロモーション効果も期待できる。
また、訪日インバウンドはオフラインイベントの経験も積むことができる。
各地で開催される観光フェアや展示会に参加することで、直接的に訪日観光客にアピールすることができる。ブースを設け、日本の観光地や文化を紹介する資料やグッズを配布する。また、訪問者との対話を通じて、リアルタイムでフィードバックを得ることができる。こうしたイベントは、現地の旅行代理店やメディアとも連携しやすい。
文化体験のプログラムやオフラインイベントなどを通すことで、顧客体験を積んでもらう力を養うことができる。
5.多言語の対応能力と活用力
インバウンドの業務においては、当然ながら外国語が分かり他国の慣習が分かる人は能力を発揮しやすい。お客様は日本人ではなく海外の方だからだ。
下記のような形で言語能力を活かす機会があるはずだ。
- 海外向けコンテンツの作成
インバウンドマーケティングにおいて、海外向けのコンテンツを作成する際に言語力が求められる。ブログ記事やSNS投稿、広告キャンペーンなど、ターゲット市場の言語で質の高いコンテンツの提供が求められる。 - 取材と現地プロモーション
外国語を活用して、現地での取材やプロモーション活動を行うことも可能。例えば、海外のメディアと連携して日本の観光地を紹介する記事を作成したり、現地の旅行代理店と協力してプロモーションイベントを開催したりする機会もあるはずだ。これにより、日本の魅力を効果的に伝えることができ、訪日観光客の誘致に繋がる。 - 海外企業との連携
訪日インバウンドマーケティングにおいて、海外企業との連携は不可欠。言語力を活かして、海外の旅行代理店や航空会社、観光協会などとのビジネスパートナーシップを構築することができる。これにより、共同プロモーションやパッケージツアーの企画が進み、より多くの訪日観光客を呼び込むことができる。
インバウンド業界で活躍しやすい人
訪日インバウンドの業界では、実に多岐に渡る業務が待っている。
先に触れた通り、訪日外国人を招致するためにマーケティングから、コンテンツの作成からプロモーション、現地の取材や他の企業や地方自治体とのタイアップまで、さまざまな業務がある。
自身の持っているスキルや経験をフルに活かし、訪日インバウンドというワールドワイドな業界で力を試してみてはどうだろうか。
語学力があり海外滞在経験がある人
インバウンドマーケティングでは、国際的な顧客とコミュニケーションを取るための語学力が非常に重要だ。英語に限らず、中国語、韓国語、欧州、そのほかの地域でも、語学に長けている人はインバウンドの業界と相性がいいだろう。
大学で語学力を高めていた人、留学経験やワーキングホリデーの経験がある人などは持ってこいの業界だ。
先に解説した通り、海外向けのコンテンツ制作や、取材・現地プロモーション、海外企業との連携やコラボイベントなど語学力を活かせる機会は豊富にある。
外資系企業や現地で働かない限り、語学力を活かせるポジションは案外と少ない。しかしながら、インバウンド業界の場合は単純に語学力を活かすだけでなく、さらにプロモーションやマーケティングなどの語学以外の業務知識をも得ることができる。
日本の文化が好きな人
日本文化の魅力を海外に発信したいと考えている人にとって、インバウンドマーケティングは理想的なキャリアパスとなるだろう。日本の伝統や現代文化を紹介し、海外の人々を惹きつけることができる。
文化や観光に限らず、漫画やアニメ、ゲームなどのサブカルから自然や食べ物まで、日本の製品まで、海外の人を惹きつける日本の魅力は多い。
訪日観光客にとって、異文化理解や国際感覚を持つことは重要である。日本文化の魅力を正確に伝えるとともに、訪日観光客の文化や習慣を尊重することで、より深いエンゲージメントを生むことができる。
訪日韓国客を誘致することで、間接的に、自分が好きな地域や文化、製品の後押しもできることだろう。なんらかでも好きなことに関わりながら仕事ができることは、仕事の楽しみにもつながるに違いない。
プロジェクトマネジメントスキルがある人
複数のプロジェクトを同時に進行させる訪日インバウンドマーケティングでは、プロジェクトマネジメントスキルが重要となる。
例えば、ひとつのプロジェクトであっても中国とアメリカなど複数の国や地域の人が訪れるかもしれない。あるいは、複数の宿泊施設や地方自治体と連携をとる必要があるかもしれない。
計画立案、進捗管理、チームとの連携など、効果的なプロジェクト運営を行うための能力が求められる。当然ながら、ビジネスの相手方と連携を図り、交渉する術なども求められる。
国や地域をまたがり、言語や文化も異なり、関係する企業や自治体なども多くあるため、インバウンドで求めらるプロジェクトマネジメントの力は高いと言えるだろう。そういう意味では、プロジェクトマネジメントの能力を高めたいと思ってい人にはうってつけの業界といえるかもしれない。
デジタルマーケティングスキルがある人
デジタルマーケティングスキルを持っている人は、インバウンドマーケティングの業界では即戦力の力を持っていると言っても過言ではない。
Google Yahooなどのリスティングやディスプレイ広告はもちろんのこと、SEO(検索エンジン最適化)、動画広告、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディアマーケティングなど、多岐にわたるデジタルマーケティング手法を駆使することで、より多くの潜在顧客にアプローチすることができる。
マス広告と違い、アプロやWebを通した広告はユーザーをある程度ターゲティングして展開することができる。日本に外国人観光客を誘致し、自分たちのサービスまで導線を引くのに、デジタルマーケティングの経験はなくてはならい。
インバウンド業界に入れば、周囲から頼りにされて仕事に強いやりがいを感じることができるだろう。
SNSが好き / 詳しい人
SNSを活用して情報を発信するスキルやフォロワーとのつながりを持っている人は、インバウンドマーケティングで成功しやすい。SNSでの影響力を駆使して、ブランドの認知度を高めることができるからだ。
例えば、中国だけでも下記のようなSNSが使われている。
WeChat(ウィーチャット / 微信)、Weibo(ウェイボー / 微博)、Baidu Tieba(バイドゥティエバ / 百度贴吧)、TikTok(ティックトック) | Douyin(ドウイン / 抖音)、RED(レッド / 紅小書)。
観光や旅行という体験が核となるインバウンドでは、SNSアカウントやインフルエンサーは他の業界以上に強いインパクトを持っている。企業のアカウント運用経験があるなど、なんらかでもSNSの運用経験がある人は、訪日インバウンドのマーケティングで活躍できる素地があるだろう。
訪日インバウンドで注目の領域・テクノロジー
インバウンドの業界では凄まじいスピードで新しいサービスや技術が世に出てきている。
どれだけ優れた技術があっても、実際に生活やビジネスの場で使われなければ意味がない。インバウンドで外国の人たちを誘致するには、国や地域という物理的な距離の障害があり、言語や文化、利用通貨や宗教や商習慣などありとあらゆるも壁が立ちふさがる。
それゆえに、壁が多いほどに新しい技術やサービスが日々試されている。どのような技術や試みがなされているか見てみよう。
交通・自動運転
外国人観光客の増加を見越し、自動運転技術の導入が急がれている。
自動運転は、言語の壁を越えて観光客の利便性を向上させ、地域経済の活性化にも寄与することが期待されている。2つほど、最新の自動運転の実証段階の事例を紹介しよう。
■羽田空港WHILL自動運転サービス
羽田空港内で誰でも自由に使える、車いすの自動運転サービスだ。空港における自動運転パーソナルモビリティとして世界で初めて2020年夏に羽田空港で導入された。6言語(日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語)に対応するなど、言語における利便性も高い。
■自動運転「ZEN drive」
国内初となるドライバーを一切必要としない「レベル4」自動運転による運行サービスを開始。場所や天候、速度などの特定条件の下、自動運転システムがすべての運転を行ってくれる。自転車との接触を起こしたため、現在は停止中のようだが、自動運転の可能性を期待させてくれる実証実験となっている。
バーチャル旅行・VR
訪日を推進するうえでの重要な視点として、実際に訪れる観光客の目線で旅を3つの場面に分ける「旅前」「旅中」「旅後」という考え方がある。旅前はWebサイトや展示会などを通じて、観光や旅行計画を立てるフェーズだ。
そして、この「旅前」を狙って、旅行・観光のバーチャル旅行やVRの活用が浸透し始めている。旅行に行く前に、旅の候補地を選んでもらうためにVRを使ってプロモーションするのだ。
VRや360°動画の技術を使い、コンテンツを通してその場にいるかのような疑似体験を届けられるた。旅先を調べる過程でテンションを上げつつ、がっかりを防ぐためにも注目が上がっている。VRや360°の動画は、通常のそれと違い、臨場感がある。いつ、どこにいても疑似体験を届けられる。
長野県箕輪町の特設サイトを一例として紹介したい。360°の動画や静止画、VR動画も用意されている。旅前に情報をチェックするには十分に役立つだろう。まだまだVRは身近に端末があるケースが少ないが、端末が世の中に浸透していくにつれ、ますますバーチャルガイドやVRでのプロモーションが進むことだろう。
観光DX
今や、至る所で観光のDX化が進んでいる。その中でも、日本で有数の京都市は早くから都市全体でDX化に取り組んでいるので少し紹介したい。
京都観光オフィシャルサイト「京都観光Navi」では、AI(人工知能)を使い快適に観光ができる度合「観光快適度」の予測結果を発信し、人気観光地における混雑解消と観光客の来訪が望まれるエリアの誘客を進めている。多言語対応で、英語、中国語(簡体字、繁体字)、フランス語、韓国語、スペイン語にも対応している。
ライブカメラの映像を分析し、快適度予測の精度向上に取り組んでいるほか、サイトの各エリアボタンをクリックすると、おすすめスポットやモデルコースなどの情報も紹介している。市内の密を解消しながらも観光客を呼び込む仕組みを作っている。
それだけでなく、出発時間や曜日などの条件や、穴場の観光、食事などの旅の好みのスタイルを入力することで推奨コースを提案してくれる、観光コンシェルジュ機能なども用意してくれている。
今後、京都市のように都市や観光地全体がDX化していくケースはどんどん出てくるだろう。時代の進化を楽しみに見ていきたいものだ。
インバウンド業界で経験を積みキャリアアップを目指す
これまではインバウンドと聞くと、爆買いや観光地の混雑などあまり良いイメージを持たなかったかもしれない。
しかし、訪日インバウンドはもはや不可逆的で、この先も日本ではますます重要性が増す経済の要素となるであろう。日本に外国人観光客を集客し、自社のサービスやビジネスまで呼び込み消費を誘発しなければならない。
その過程の中には、リサーチやマーケティング、コンテンツ制作からプロモーション、自治体や企業との提携などさまざまなビジネス要素が含まれている。これらのビジネスの経験は非常に魅力的で、キャリアを磨き上げるポイントとなるだろう。
インバウンド全体が盛り上がれば、関連する企業やサービスも恩恵を受け、当然ながら成長する。中には上場する企業も出てくるだろう。会社の成長=キャリアの成長と言っても過言ではなく、職務経験だけでなく次のキャリアの切符も手にすることだろう。
時代は変わってきている。機会があれば、訪日インバウンドに関わる業界や企業も検討に入れて貰えれば幸いだ。