マーケターとしてのキャリアを築くうえで、どの環境で経験を積むかは非常に重要である。多くの人は大手広告代理店や事業会社での仕事を目指すが、第三の道があることを知っているだろうか。
それは、ハウスエージェンシーだ。ハウスエージェンシーはマーケターとしてのスキルを磨きつつ、キャリアを積み上げるための理想的な環境を提供する。
はうすえーじぇんしーってなんニャ?よくわからないからお散歩行ってくるニャ。
もこちゃん、ハウスエージェンシーは広告代理店のことよ。詳しくは、転職ギルドでマスターに解説して貰おう。
さて、もこネコがハウスエージェンシーのことを知らなくてお散歩に行ってしまった。
この記事を読んでくれている人は、ハウスエージェンシーのことは知っている人が多いと思うが、念のため用語の解説から進めて行こう。
ハウスエージェンシーとは何か?
ハウスエージェンシーは特定の事業会社を広告主として、専業で広告事業を行っている広告代理店のことだ。親子関係であることが多く、親会社の宣伝活動をメインとして行ったり、自社が保有する広告媒体を取り扱ったりしている。
たとえば、明治アドエージェンシーはわかりやすいだろう。名前の通り、お菓子の明治(Meiji)の子会社で明治のお菓子や企業ブランドのプロモーションのお手伝いを主に行っている。
別の例としては、東急エージェンシーなども分かりやすいだろう。親会社は東急電鉄なので、東急電鉄の広告やプロモーションを主に行っている。その他、東急エージェンシーの場合は、東急電鉄の駅構内の広告掲載スペースや電車内の広告欄などを売る「媒体社」としての業務も行っている。
明治アドエージェンシーや東急エージェンシーのように、ハウスエージェンシーは親子関係であることも多い。そのため、親会社のビジネスモデルやニーズを深く理解しており、長期的な戦略を構築することが可能という特徴がある。
ハウスエージェンシーで得られる3つの魅力
1. 抜群の安定性
ハウスエージェンシーで働く最大の魅力は、その安定性にある。
明治や東急電鉄に限らず、ハウスエージェンシーは特定の企業に紐づく形で活動しているため、親会社の安定性はそのままそのハウスエージェンシーの安定性にも繋がりやすい。そのうえ、プロジェクトが終了した際に次のクライアントを探す必要がない。
これは、通常の広告代理店でよく見られる不安定な環境とは対照的である。クライアントが変わるたびに、新しい業界や市場に適応する必要がなく、安定した環境で長期的に働けることは、大きなメリットである。
2. 事業会社のマーケティング経験を積む機会
ハウスエージェンシーで働くもう一つの大きな利点は、事業会社のマーケティング業務に直接関与できる点である。
通常の広告代理店では、事業会社のマーケティングはが上流の戦略を考え、広告の実行を担うことが多い。実行がメインとなるため、プロモーションの上流から考えたり、広告の反応や数値を見ながらPDCAを回すような経験は積みづらい。
しかしながら、ハウスエージェンシーは、広告代理店としての役割を果たしつつ、事業会社のマーケティング戦略やブランディングにも「深く」関わることができる。半分、親会社(事業会社)の血も入っているため、事業会社のような立ち位置でも仕事をしていくことになるのだ。
具体的には、企業のプロダクト戦略や市場調査、消費者インサイトの分析など、多岐にわたる業務に携わることができる。これにより、広告制作やメディアプランニングだけでなく、より広範なマーケティングスキルを身につけることが可能となる。このような経験は、将来的に事業会社でのキャリアを目指す際に大きなアドバンテージとなる。
3. 大規模なマーケティング経験も積める
多くの場合、ハウスエージェンシーの親会社は大企業であることが多い。
トヨタ・コニック・プロは名前の通り、あのトヨタ自動車のハウスエージェンシーだ。トヨタ・コニック・プロの例は極端だったかもしれないが、ほとんどのハウスエージェンシーは親会社がそうそうたるメンツの企業となる。
それゆえ、大規模なマーケティングプロジェクトに関与する機会が多い。これにより、大きな影響力を持つキャンペーンや広範なターゲット層を対象としたマーケティング施策に参加することができる。
特に、グローバル企業や全国規模で展開している企業においては、国内外の市場をターゲットにしたキャンペーンを実施することが求められる。これにより、グローバルな視点でマーケティングを学ぶ機会が増える。また、こうした経験は、通常の広告代理店では得られにくい貴重なスキルセットとなる。
ハウスエージェンシーでのキャリア形成
ハウスエージェンシーで働く場合は、良い所どりをしたキャリア形成をしよう。具体的には下記3点のステップを踏むことだだ。
①広告代理店視点でのマーケティングノウハウを吸収する
②事業会社視点でのマーケティングノウハウを吸収する
③大規模な広告・プロモーションの経験を積む
ハウスエージェンシーは親会社の広告支援以外にも、一般企業の広告・プロモーション支援をしていることが多い。親会社(自社グループ向け)の組織とそれ以外の組織で分かれているのだ。
そのため、親会社やグループ向けの広告プロモーションでは事業会社に近い立ち位置で経験を積むことができる。グループ外の事業会社の広告プロモーションでは、純粋な広告代理店としての経験を積むことができる。時にはコンペなどで案件を競うようなこともあるだろう。競争意識を持ちつつ、マーケティング力を研ぎ澄ますことができる。
親会社や自社グループ向けの広告と一般企業での広告、2部署で仕事をしてほしい。そうすれば、転職をせずに事業会社に近いマーケティングの知見と代理店側での知見、2つの側面で経験を積むことができる。
代表的なハウスエージェンシー14選
日本には何十社というハウスエージェンシーが存在する。すべての紹介はできないが、いくつか紹介をしてみたい。
世界に誇る日本の自動車業界から3社、家電メーカーから3社、商社から3社、空輸から2社、交通から3社,、食品から3社のハウスエージェンシーをピックアップしてみた。気になる会社があればリンクを辿ってHPを確認してみてほしい。
- トヨタ・コニック・プロ (トヨタ自動車)
日本を代表するグローバル企業、トヨタ自動車のハウスエージェンシー。旧社名:デルフィス。クルマ及びクルマ開発の商品やサービスについて、長年、情報とノウハウを蓄積している。 - ホンダコムテック (本田技研工業)
本田技研工業(Honda)100%出資。主にHonda四輪製品の宣伝販促企画を手掛ける。その他、Honda四輪販売会社のプロモーション事業を行う。 - TBWA HAKUHODO (日産自動車)
博報堂、TBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社。HPが斜めで作られている。取引先は外資が多く、英語が得意な人には相性が良いかもしれない。 - アイプラネット (三菱電機)
三菱電機グループのコミュニケーション会社であり、主なクライアントは三菱電機及び三菱電機グループ。日本を支えるインフラなどスケールの大きな事業に携わることが可能。 - フロンテッジ (ソニー)
ソニーと電通が出資する総合広告会社。ソニー向けのプロモーション以外にも、日清シスコやボッシュなど、超大企業向けのプロモーション案件を多数手がける。大企業なプロモーション経験を積むにはもってこいの会社。 - クリエイターズグループMAC (パナソニック)
パナソニック株式会社100%出資のグループ会社。パナソニック商品だけでなく、パナソニック汐留美術館やグループ100周年記念広告などさすがハウスエージェンシーというプロモーションを多く手掛けている。 - SCデジタル (住友商事)
住友商事グループの事業会社として2017年12月に設立。社名の通り、数あるハウスエージェンシーの中でもデジタルに強みを持つ一角。コンサルティングから上流で入っていくスタイルを持つ。 - 伊藤忠インタラクティブ (伊藤忠商事)
伊藤忠商事100%出資の完全子会社。デザインマネジメント、デジタルマーケティング、デジタルコマースビジネス支援の3領域で事業を展開中。デザインやデジタルマーケティング領域で経験を積みたい人向け。 - りえぞん企画 (丸紅)
もともとは丸紅の100%子会社だったが、今はMBOを行い丸紅の出資比率は5%。ただし、丸紅グループの取引は今なお健在。丸紅本体や丸紅情報システムズ、そのほか、キリンや鹿島道路など数々の大手の広告制作・プロモーションを手掛けている。 - ANA X(全日空)
ANAグループのマーケティングプラットフォームの運営を担っている。ANAマイレージクラブの企画・運営、新規事業開発を行っており、広告代理店というよりはマーケティング企業という認識の方が合っている。 - JALブランドコミュニケーションズ (JALグループ)
JALグループ機内誌「SKYWARD」の企画・制作、またJAL公式ソーシャルメディアアカウントやコミュニティサイトなどのデジタル・コンテンツの企画・制作を行っている。 - ジェイアール東日本企画 (JR東日本)
通称:jeki。東日本旅客鉄道(JR東日本)の子会社で総合広告会社。駅、電車、駅ビルや駅ナカ商業施設などJR東日本グループの壮大なコミュニケーションゾーンを活用した、複合的なコミュニケーション活動を展開。 - メトロアドエージェンシー (東京メトロ)
東京メトロの広告事業戦略子会社として発足したハウスエージェンシー。代理店でありつつ媒体社でもある。1日の利用者が595万人(2022年度)におよぶ東京メトロの広告枠を抑える超優良企業。 - 東急エージェンシー (東急電鉄)
日本の広告業界において2023年の売上はなんと第7位。もはや、ハウスエージェンシーの域を超えている。多くの生活者接点を持つ東急グループならではのリアルに設計された実効性の高いマーケティングソリューション・体験づくりを実現する。 - サン・アド (サントリー)
サントリー株式会社の系列会社として設立。創業から60年が経過する老舗代理店。コピーライティングが強い。あの有名な、「水と生きる」というサントリーのキャッチコピーも同社から生まれている。 - 味の素コミュニケーションズ (味の素)
味の素のハウスエージェンシーで通称「アジコム」。さすがの福利厚生。味の素健康保険組合、味の素グループ従業員持株会、財形貯蓄制度、資格取得補助、各種利用施設との提携、退職金制度(一時金、確定給付企業年金)。 - 明治アドエージェンシー (明治)
「おいしいアイデアがある」が同社のコーポレートメッセージ。実績ブランド例を見るだけで、やりがいを感じることができる。明治ブルガリアヨーグルト、明治おいしい牛乳、明治エッセルスーパーカップ、ガルボ、チョコレート効果、etc。
ハウスエージェンシーを選ぶべき理由
最後に、ハウスエージェンシーがマーケターとしてのキャリアを築くための最高の場所である理由を再確認しよう。
ハウスエージェンシーは、安定した環境で長期的に働けるだけでなく、事業会社のマーケティング経験を積む機会や、大規模なマーケティングプロジェクトに参加する機会を提供してくれる。これにより、広告代理店での経験と事業会社での視点を同時に得ることができるため、マーケターとしてのスキルとキャリアを大きく成長させることが可能なのだ。
安定性の高さからずっと長く同じ会社ではたいてもよし。ハウスエージェンシーで経験を積んだ後、事業会社でのキャリアを目指してもよし。あるいは、総合大手の電通博報堂やマッキャンエリクソンのような外資を目指す道もあるだろう。
この環境で得られる経験とスキルは、将来的にどのようなキャリアパスを選んでも、必ず役立つものである。マーケターとしてのキャリアアップを考えているのであれば、ぜひハウスエージェンシーでの経験を視野に入れてみてほしい。